大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

最高裁判所大法廷 昭和24年(オ)90号 判決 1954年11月10日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人水口吉蔵の上告理由は末尾添附の別紙記載のとおりであつて、論旨は総て本件買収価額が正当の補償でないことを前提とするものである。しかし右価額が正当の補償といい得るものとする原判示は正当であるから(昭和二五年(オ)第九八号同二八年一二月二三日大法廷判決参照)論旨は総て理由なきに帰する。

よつて民訴法第三九六条、第三八四条、第九五条、第八九条に従つて主文のとおり判決する。

この判決は裁判官井上登、同真野毅、同斉藤悠輔、同岩松三郎の少数意見を除き全裁判官全員一致の意見によるものである。

裁判官井上登、同真野毅、同斉藤悠輔、同岩松三郎の少数意見。

私は結論において多数説と一致するものであるが理由が異るのである。自作農創設特別措置法は、農地改革に関する国の大政策を「急速且広汎に」(同法第一条)達成することを目的とするものであるから、法所定の買収による所有権移転の効力が訴訟によつて争われ、長く確定しないことは甚しく法の目的に反するものといわなければならない。それ故法は対価の額に対する不服の為め買収そのものの効力が争われこれによつて法所期の所有権移転の効力の確定が遅延することを避ける為め、所有権の移転と対価の支払とを分離し、所有権の移転は対価の如何に拘わらず(他に買収行為につき欠陥なき限り)効力を生ずるものとし、対価額に対する不服については特に法一四条の訴を認めてその救済を計つたのである(前記大法廷判決中に掲げた少数意見参照)。しかも不服が買収対価の額についてのみ存し、他に何等不服なき場合においては、その為め買収全体を無効たらしめる必要は少しもなく、対価額の増額によつて十分救済されるべき理である。されば、法が特に右の訴を認めた趣旨は、対価の額のみに対する不服の救済は専ら此の訴にのみよらしめ、これを事由として買収そのものの無効確認又は取消を求める訴の提起を許さないこととするにあるものと解すべきである。しかして本訴が対価額のみの不服により買収の無効確認を求める訴であることは記録により明であるから、本訴請求はこの点において既に認容され得ないものというべく、これを棄却した原判決は結局正当であり、論旨は総て理由なきに帰する。

裁判官塚崎直義、同長谷川太一郎、同沢田竹治郎、同穂積重遠は合議に関与しない。

(裁判長裁判官 田中耕太郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 斉藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例